【tubu.37】見かけないけど意外とコワイ「破傷風」【いつでもどこでも】
37.見かけないけど意外とコワイ「破傷風」
前回→【tubu.36】痛風がこわい?それなら予防と治療を知っておこう!【痛いとき・痛くならないために】
( @∀@)
みなさんこんにちは。Dr.かづきちです。
きょうは、意外と怖い足の怪我と題して、釘の踏み抜きのお話をしたいと思います。
例えば工事現場、家の取り壊しなどの現場を歩く時、間違ってサビ釘を踏んでしまう人がいます。
釘は錆びていたとしても、鋭利で、傷口もあまり大きくはなりません。
痛かったけど、傷口があまり大きくないので、軽く消毒しておしまい…それだけで、終わりかと思いきや…。
釘の踏み抜きによって思わぬ、病気になることがあります。
それは破傷風…!
破傷風って一体なんなんでしょう?
きょうは釘の踏み抜きでなる、破傷風についておはなしします!
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「破傷風」の原因は?
「破傷風」というの名前は、なんだか傷に関係していそうな感じがします。
その名の通り、怪我をした時に、破傷風菌がからだの中に侵入し、悪さをし始めると破傷風になってしまいます。
破傷風菌は世界中の水の中、土の中にいます。どこにでもいる、ありふれた菌です。
人の腸内からも見つかります。
私たちは、生活する中で、小さな怪我から大きな怪我まで、いろいろな怪我を経験します。
しかし、破傷風にならない人の方が多い…ですよね。
では、なぜ釘の踏み抜きによる傷では破傷風が問題になるのでしょう?
普通の切り傷と、釘の踏み抜きによる傷の違いは何?
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破傷風菌は空気がお嫌い?
普通の切り傷は浅く、汚れてもすぐ洗ったり消毒することが可能です。
一方、釘の踏み抜きでは、傷が深く、よっぽどではない限り洗ったり、消毒したりできないですね。
さらに、傷の奥の方は空気が触れることができません。
この空気にさらされていない空間であることが、問題になります。
破傷風菌は、このように空気がない空間が大好き!
この空気のない空間で、破傷風菌はぬくぬく増殖します。
「あれ?空気がないと生物は生きていけないのでは?」と質問が来そうです。
実は、細菌の中には空気が嫌いな奴らがいます。
空気が嫌いだから「嫌気性菌」と言われます。
実は破傷風菌は嫌気性菌の仲間なのです。だから空気がない空間が大好き!
このため、釘の踏み抜きなど深い傷が原因で破傷風になることがあります。
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そもそも、破傷風って何?
そういえば、破傷風ってどんな病気なのでしょう?
原因は破傷風菌、もっと詳しくいうと破傷風菌がつくる毒素です。
傷口から体の中に入った破傷風菌は、そこで増殖し毒素を作り出します。実はこの毒素は神経に作用します。
この毒素が神経に作用すると、筋肉が痙攣し、自律神経も障害されます。
全身性の破傷風では、まず口が開かなくなる(開口障害)などの症状から始まり、水が飲めなくなったりします。
そして、次第に手足の方に症状が降りていきます。
怪我をしてから破傷風の発症するまでは、時間がかかることがあります(短くて4〜7日、長くて数年の潜伏期)。しかし、怪我から発症までの期間が短いほど、破傷風は重症化する傾向があり、致死率も高まります。
また、呼吸筋が毒素の影響を受けると、息ができなくなり命に関わります。
さらに、ひどいものでは自律神経が侵されることで、血圧が乱高下したり、脈が速くなったりと、心臓に負担を与えます。
一般的に神経が障害される病気では、運動神経や自律神経だけでなく、感覚神経も障害されることがあります。
しかし、破傷風の毒素は感覚神経には影響を与えません。
そのため、全身の筋肉が痙攣してしまうと、つったような痛みがダイレクトに脳に伝わります。
考えるだけでゾッとします。
また、破傷風では、光や音などの刺激が原因となって、全身の痙攣を引き起こすことがあります。
そのため、患者さんは暗い静かな部屋に入院させられます。
想像するだけで怖い症状のオンパレードです。
致死率も高く、医療がしっかりとしている現在でも、発症すると20〜50%は亡くなります。
(昔は致死率80%だった…)
破傷風って怖いですね…。
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釘の踏み抜きだけではない!破傷風の原因となる傷。
もちろん、破傷風の原因となる傷は他にもあります。
例えば、ペットや動物に噛まれた時。見た目よりも傷が深くなってしまうことがあります。これで破傷風になってしまうこともあります。
先ほど、破傷風菌は土の中にいると言いました。実は庭いじりをしていた人が手を切って、破傷風になるケースもあります。
医療現場で破傷風の原因となるのは、人からの噛みつきです。
例えば、入院すると、一時的に自分がどこにいるのか、何をしているのかわからなくなる患者さんがいます。
このような状況をせん妄と言います。
せん妄を起こした患者さんが暴れて、医療スタッフに噛み付くことがあるのです。
実は人の口腔内には、いっぱい菌がいます。
このため、破傷風だけでなく、他の菌やウィルスにも感染する可能性があります。
人は何よりも身近な存在だからこそ、怖いですよね…。
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破傷風のワクチンは打ちましたか?
意外と身近にいる破傷風菌ですが、破傷風になる人はあまり多くありません。
これは、ワクチンのおかげ!
みなさん小さい頃に、破傷風ワクチンを打っていると思います。
そのおかげで、破傷風に感染する人は大幅に減りました。
しかしながら、世代によっては定期接種を打っていない人や、ワクチンを打っても効果が切れてしまっている人がいます。
破傷風ワクチンは、1952年に生産されるようになり、1968年から定期接種が開始されました。
そのため、1968年以前にお生まれになった方は、ワクチンを打っていない可能性があります。
このような方が、噛みつきや釘の踏み抜きなどの怪我をした場合は、すぐに病院に行くことをお勧めします。
また、破傷風ワクチンは10年間は免疫がありますが、ワクチン接種後10年以上立っている場合、免疫が落ちている可能性があります。
もし、海外で怪我をする可能性があるときは、ワクチンを打ってから出国しましょう。
海外渡航のためのワクチン https://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html
以上、今回は破傷風についておはなししました。
ワクチンの登場で今はあまり見かけなくなりましたが、意外と怖い病気なんですね…。
次回は、破傷風の治療をチェックします!
国家試験対策にもなりますよ〜。
次回→【tubu.38】かかっちゃうと大変!破傷風の治療【予防接種は大事】
破傷風とは? 国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/466-tetanis-info.html
FORTH 厚生労働省検疫所 海外渡航のためのワクチンhttps://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html