【tubu.44】最近の医師国家試験の問題を解いてみた①【銃創・爆傷患者診療指針】
もくじ!
44.最近の医師国家試験の問題を解いてみた①~銃創・爆傷患者診療指針~
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( @∀@)
みなさんこんにちは。Dr.かづきちです。
2018年も残りわずか。
来年には、日本で初めてラグビーW杯が開かれます。また、2020年には東京オリンピックも開催予定です。
このような国際的な催しで、注意したいのがテロ事件。
世界では、テロ事件が頻発しています。先日も、ロサンゼルスで銃撃戦があり、12人が死亡しています。
2013年、ボストンマラソンの会場で3人が亡くなり、重傷者が複数出ました。
このように国際的なスポーツ大会の会場でもテロが起きています。
東京オリンピックでも、テロが起きる可能性は十分にあるでしょう。もちろん起きて欲しくありませんが…。
しかし、幸運なことに普段私たちは、銃撃戦による外傷に出会いません。ましてや爆弾による傷なんて見たことがありません。
もしそのような事件が起きたら、どうやって対応すればいいのでしょう…。
実は、昨年度の医師国家試験で、ふと興味深い問題を見つけました。
ちょっと解いてみてください。
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国家試験の問題を見てみよう
【問】圧力波による1次爆傷を受けにくいのはどれか。
a 眼球
b 鼓膜
c 肺
d 胸椎(*背骨の一部)
e 消化管(*胃とか腸とかのこと)
(第112回医師国家試験C問題5番より)
まず、「“圧力波”って何!?」と思ったのではないでしょうか。
しかし、後ろに「爆傷」と書いてあるので、爆発による傷のことかとお分かりいただけると思います。
きっとこの問題を見た受験生は、びっくりしたことでしょう。
このような爆発による傷に関して問題が出たのは、私が記憶する限り初めてのことだと思います。
おそらく、これから開催される国際的なイベントを意識した問題でしょう。
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「銃創・爆傷患者診療指針」ってなに!?
では、そもそも爆傷って何なのでしょうか?1次爆傷があるなら2次、3次ってあるのでしょうか?
その答えを探しているときに、こんなものに出会いました。
その名も、「銃創・爆傷患者診療指針(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjast/32/3/32_Ver1-1/_pdf)」!
私は、初めて見ました!それもそのはず、なんと第112回国家試験(2018年2月)後の2018年3月に出されているのです。
(これはきっとみんなも知らないはず…)
作成者は、「日本外傷学会 東京オリンピック・パラリンピック特別委員会」。
予想通り、2020年の東京オリンピックを意識して作られた指針でした。
この指針は、銃による傷や、爆発による怪我を見る機会が少ない日本の医師のために作られました。
不幸にしてテロが起きた場合にこの診療指針に基づいて、治療に当たって欲しいと書かれています。
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指針にはなにが書かれているの?
この指針には、いかに銃創や爆傷を負った患者さんを助けるかということが書かれています。
ポイント1 テロ現場は危険
災害や事故現場ではトリアージ*を行ない、患者さんを緊急度別に分けて搬送するのが一般です。
しかし、テロ事件が起きた現場は、現場そのものが危険!(ホットゾーンと言います)
*トリアージ:大量の傷病者が発生した時、重症度を判定し、搬送・治療の順序・優先度を決めること。
そのため、速やかに危険な場所から患者を運び出す必要があります。
また、救護でさらなる負傷者が出ないようにすることも大切です。
その場でトリアージをするよりも、まず患者さんを次々に安全な救護所*へ運び出します。
*指針では、現場から近くの大病院を大量傷者救護所にすることを提案しています。
そして、救護所についてからトリアージを行います。
ポイント2 大量出血による出血死を防げ!
銃創を負った患者さんは、大量に出血して、出血死するリスクがあります。
そこで、まず大量出血をコントロールすることが重要だとしています。
また、銃創など鋭い傷(鋭的外傷)を負った患者さんには、緊急手術が非常に有効です。そのため、指針では、すぐに麻酔をかけて緊急手術できるような準備を勧めています。
ポイント3 弾道学について書いてある!
日本では、銃創なんて滅多に見ません。
だから、実際はどんな傷ができるのかなんて、全く知りません。
そこで、この指針には銃弾がどのように体内に入り、組織を傷つけるかということが書かれています。
私は、銃弾はまっすぐ入って突き抜けるとばかり思っていましたが、実はそうではないようです。
銃弾に回転やゆれ、変形などが加わり、弾道から離れた位置の組織も損傷を受けるのだそうです。
銃弾の入り口と出口を結ぶ直線だけを考えればいいというわけではないのですね。知らなかった…。
ポイント4 体内に入った銃弾は全て取り出さなくてもいい
私は、銃弾が体の中にあったら全て取り出すものだと思っていました。
映画とか、ドラマとか、漫画・ゲームでも銃弾は取り出してますよね…。
しかし、実際は感染のリスクや、血管をせき止めていたりする場合など以外は、無理に取り出す必要はないそうです。
その代わり、きちんと抗菌薬で治療することが大事です!
「え、銃弾を体内に残していて鉛中毒にならないの?」という声が聞こえそうです。
残念ながら、鉛中毒に関してはよくわかっていないそうです…。
ポイント5 銃弾を受けた場所ごとに対応方法が書かれている
頭、首、腹、胸、手、足…銃弾はどこに当たるかわかりません。
また、部位ごとに臓器が大きく異なります。
そのため、この指針では銃創に対する部位別の対応方法や手術方法が細かく書かれています。
「へぇ…銃弾ってこんなふうに人を傷つけるのか…」という勉強になります。
銃社会ではない日本においては、聞いたことも見たこともない対応方法がいっぱい…。
戦争や紛争、テロ、銃撃事件が頻発する地域では必須の知識ということを実感できる内容でした。
あ!!!
そういえば、治療指針のことばかり話していて、肝心の問題の解答を忘れていました。ごめんなさい。
あまりにも衝撃的な指針だったのでつい…。
次回はこの指針の「爆傷」に関する内容に触れつつ、国家試験の解答を見ていきたいと思います!
次回→【tubu.45】最近の医師国家試験の問題を解いてみた②【爆傷ってなに?】
参考URL
銃創・爆傷患者診療指針(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjast/32/3/32_Ver1-1/_pdf)
厚生労働省 第112回医師国家試験の問題および正答について(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-01.html)