【tubu.54】カレーを食べたらお腹を下した?その原因は?【作り置きにご用心】
54.カレーを食べたらお腹を下した?その原因は?
前回→【tubu.53】知ってるようで知らないボツリヌス③【筋肉が動かなくなる仕組み】
( @∀@)
みなさんこんにちは。Dr.かづきちです。
皆さんはカレー好きですか?好きですbyくま
うろ覚えではあるのですが、数年前、とある県でこんな食中毒が起きました。
ある中学生のグループがスポーツの大会で、旅館に宿泊していた。
旅館で出されたカレーを食べたところ、複数人が下痢をした。
旅館では、カレーを前日に作り、当日の朝に温めて出したという。
さて、この食中毒いったいなんなのでしょう?
そういえば、熱を通しているのにも関わらず、食中毒が発生しているようですが、いったいなぜでしょう?
今回は、この謎に迫ります。
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犯人は誰だ?
普通、しっかりと火を通したものを食べてもお腹を壊しませんよね。
しかし、今回はそうではありません。
例えば、大人数にカレーを配るとき…、この旅館のように前日から作り置きをしておくと、再度温めたとしても今回のようにお腹を下してしまうことがあります。
それはズバリ、カレーが冷めた時に菌が増えているから!
実はこの菌、ウェルシュ菌と呼ばれます。
このウェルシュ菌、本名をクロストリジウム・パーフリンジェンスClostridium perfrinensと言います。
なんと、ボツリヌス菌や破傷風と同じクロストリジウム属の菌なのです。
ちょっと意外に思う方もいるかもしれませんね。
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冷めたカレーに潜むもの
クロストリジウム属の菌といえば、やはり空気がお嫌い。そして忘れてならないのが、「芽胞」を作ること。
ということは、この菌もなんだか空気が少ないところで増えそうですね。
たくさんのカレーを大鍋で作って、一晩作り置きする場合、大鍋の底の方には空気が行き渡りません。
ウェルシュ菌は、この環境が大好き!夜中に大鍋の底でぬくぬく増殖します。
朝になってカレーに火を通します。しかし残念ながら、増えてしまったウェルシュ菌は芽胞を作り、熱に耐えます。
そしてそのまま、お皿に注がれ、まんまと人間のお口の中に入りこみます。
しかし、この時点ではまだ食中毒は起こしません。
ウェルシュ菌が消化管に入り込みます。するとそこで、芽胞になったウェルシュ菌がどんどん毒素を作り出します。この毒素はエンテロトキシンと言われ、この毒素が食中毒を引き起こすのです。
他にもスープやシチューでも同じように、ウェルシュ菌が増殖して食中毒を引き起こします。
ウェルシュ菌による食中毒は、大鍋で作った食品で起きることが多いです。
このため、一度にかなりの人数が下痢や腹痛をきたします。
大鍋で作って、そのまま一晩放置は危険です!食べる直前に作るのがベスト!
ただ、ウェルシュ菌による下痢は、普通は軽度で2〜3日で治ります。
また、ノロウィルスとは違い、吐くことは少ないです!
ノロウィルスって吐くのが結構辛いですよね…その点ウェルシュ菌食中毒はまだマシなのかもしれません。
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食中毒だけではないウェルシュ菌
最近では、食中毒ではない経路で集団発生するケースも報告されています。
高齢者施設で、入所者が集団でウェルシュ菌による下痢を発症することが多く、中には院内感染と認められたものもあるそうです。
おそらく、ベッドの柵や、トイレにウェルシュ菌がくっついており、それが体の中に侵入し発生したのでしょう。
多くの場合はウェルシュ菌による下痢は軽症です。
しかし、高齢者は免疫が落ちていることを忘れてはいけません!時に、ウェルシュ菌が作る毒にやられて急死する場合もあります。軽いからと侮ってはいけませんね。
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食べ物を安全に保存しよう!
カレーの作り置きは危険といっても誰もが、カレーの作り置きをすると思います。
もちろん私も、作って冷凍庫や冷蔵庫で冷やして保存します。
しかし、小分けにしたカレーでお腹を壊すことってほぼありませんよね?
なぜでしょう?
大鍋を室温で放置するとゆっくりと冷えます。まさにこれはウェルシュ菌が菌がぬくぬく増殖する環境です。
一方で、小分けにして冷蔵庫に入れると、一気に冷えます。すると、寒くて菌は増殖できません。
また、小分けにすることでカレーが空気に触れます。空気がお嫌いなウェルシュ菌は、当然小分けにされたカレーの中はお嫌い。このため、ウェルシュ菌は増えにくいのです。
ウェルシュ菌には、大鍋汁物の前日調理、室温保存はNG!
カレーやシチューなどは、小分けにして急速に冷やしましょう!もちろん食べるときはよく加熱してくださいね。
もし、万が一、食中毒になってしまったら、保健所に相談しましょう!
もちろんお医者さんは、食中毒を発見したら、すぐに保健所に届け出をしましょう!
次回→【tubu.55】抗菌薬で腸内細菌が入れ替わる???【菌交代現象】
国立感染症研究所 ウェルシュ菌感染症とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/prsp/392-encyclopedia/324-c-perfringens-intro.html
戸田新細菌学 改定33版 破傷風 p605〜p607 南山堂 編集 吉田眞一